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可動性義眼台埋入手術に関する説明


この度     様の眼球摘出手術を行うにあたり、我が国ではまだ医療用具として、国からの認可が下りていない、メドポール可動性義眼台を埋入しますので、その有用性と危険性につき説明を申し上げます。

  1. 義眼台埋入の必要性

     眼球を摘出すると、3−4mlある眼球の占めていた空間が消失するので、その部分を何らかの方法で補わないと落ちくぼみ、正常な方の目と比較しておかしな感じになります。
     義眼台を入れない事も可能ですが、その空間は義眼で補う必要が生じます。 そのため、それだけ大きな義眼を使用することになりますし、義眼の動きは全く期待できません。 そこで、眼球摘出時に眼球の代わりになる物(義眼台)を結膜下に埋入する方法が研究され、1885年初めて人間に使用されました。 近年欧米では、悪性腫瘍の眼球が摘出される時でも、義眼台を埋入する事が一般的に行われ、動きもある美容的にも優れた義眼を入れることが可能となり、多くの患者さんに喜ばれています。

  2. 義眼台の種類

     義眼台には種々の物質が使われてきました。 身体の一部となるため、身体に対して異物反が生じない事が絶対必要です。 眼球を摘出しても眼球を動かす筋肉は正常のまま残っているので、義眼台に筋肉を結合させる事が出来たら、義眼を動かす事も可能となります。1985年、米国のPerryはこのような観点からサンゴの骨格を構成しているハイドロキシアパタイトを、角膜移植に使用した後に残った強膜に包み、義眼台として使用しました。 強膜に包む理由は眼筋を縫合して動きのある義眼にするためです。 これは画期的な可動性義眼台として成功しましたが、大きな問題が二つ有ります。 一つは死亡者から献眼された眼球の強膜を使用するため、入手が困難な事と、第二はクロイツエル・ヤコブ病の原因となる、ウイルスより小さな病原体ビブロンを取り除けない事です。
     これを解決するために考え出されたのがメドポール可動性義眼台です。 これはボリエチレンで出来ている多孔性の合成樹脂で、1985年、米国のFDAに骨形成手術等の目的で生体内に埋め込む材料として認可されています。 ハイドロキシアパタイトと比較すると脆(もろ)く無く、眼筋を直接縫合出来ます。 そのため保存強膜を使用する必要が有りません。

  3. メドポール義眼台の危険性

     他の可動性義眼台と同様に多孔性であるので、感染が起こると単純な抗生物質投与では完治しないことが多く、場合によれば、義眼台そのものを摘出・除去する必要が生じる可能性があります。 また、生体に対し異物として反応する事は少ないのですが、表面の結膜や結合組織の被膜を破り、一部が露出する事があります。 そのような場合には、表面の組織を再縫合して露出しないようにしますが、多数回の再縫合にもかかわらず、露出してしまう場合には、義眼台を摘出し、除去する必要が生じます。

  4. わが国で医療器具として未認可なメドポール可動性義眼台を使用することに伴う法律的な問題

     メドポール可動性義眼台は、米国を初めとして、海外では多くの国で医療器具として認められいますが、わが国では未認可です。 これは危険だからではなく、経済的な問題からです。 認可を受けるためには、安全性と有効性を証明する資料を集め、提出する必要があります。 このためには、かなりの費用がかかります。 一方この義眼台を必要とする患者さんの数は、日本では眼の癌が少ないこともあり、あまり有りません。 この事実からも簡単に想像出来るように、認可を得るために投資しても、その費用が簡単には回収出来ないのです。 ですからわが国では、申請された事が無いため、未認可なのです。
     現在の我が国での健康保険の制度では、保険で認められた以外の医療行為を行う場合、同時に行う他の全ての医療行為が健康保険の適用外となる事に決められています。
     このようになると患者さんの経済的な負担は大変で、かなりの高額になります。 これを避けるため、今回のメドポール可動性義眼台は、厚生労働省・がん研究助成金による班研究の一つとして、研究費で購入しており、費用は一切無料です。 但し、もし手術後に、不幸にも義眼台が露出したり、感染症が起こったりした場合の医療については、健康保険が適用出来る事もあり、患者さんご自身の負担でお支払いをお願い致します。 今回の治療は認可を得るための治療研究(治験)ではないので、そこまで研究班では費用を負担出来ないからです。

                                                          以上

    参考文献
    Karesh,J.W.et al: High-density porous polyethylene(Medpor) as a successful
    anophthalmic socket implant , Ophthalmology 101:1688-1696, 1994