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研究の目的・意義:
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眼部悪性腫瘍は頻度が少ないのですが、眼部は最も情報量の多い重要な感覚器官であるとともに、容貌の中心であるため、機能や形態を温存して治癒させることが望ましいのです。選択的眼動脈注入法を使用すれば、抗がん剤であるメルハランの量を出来るだけ少量注入して、全身的な副作用を最小限に抑えて、治癒させる事が出来る可能性が高いので、本法の有効性と安全性を明らかにするため、本研究は企画されました。
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研究の対象と方法:
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対象とする眼部悪性腫瘍としては、網膜芽細胞腫、脈絡膜悪性黒色腫、眼部悪性リンパ腫があります。
1)選選択的眼動脈注入法について
眼動脈は内頚動脈から分かれる最初の大きな支流です。ここにだけ殆どの薬剤を投与するため、生理食塩水を注入して内径を拡大出来るバルーンを持つ、バルーンカテーテルを使用します。眼動脈の入り口を越えたところで、バルーンを拡大して脳への血流を一時的に遮断して薬剤を注入すると大部分の薬剤が眼動脈にだけに流れます。注入後は直ちにバルーンを元に戻し体外に抜去します。抜去後は直ちに創部を圧迫して止血し、止血が確認されたら、創部に圧迫ガーゼを当て止めます。 翌日はそのガーゼを取り除き、普通の小ガーゼを当てて止めます。成人等で内頚動脈の口径が大きく、バルーンで塞げない場合は直接カテーテルの先端を眼動脈内に挿入して薬剤を注入します。
2)網膜芽細胞腫の治療法について
眼球保存治療の対象となる、明らかな眼球外への浸潤が認められない症例が対象となります。 メルハランを初回は5mg注入し、2回目、3回目は体表面積(mm2)当たり5mg注入します。同時にリンデロン1mgを眼部の血管の保護と透過性昂進による浮腫の予防に注入します。腫瘍が縮小して平坦化したら、半導体レーザーを照射して熱凝固し、周辺に腫瘍があれば冷凍凝固を加え、腫瘍の完全な不活化を促します。硝子体播種が強い場合はメルハラン20μgを生理食塩水に溶解して0.1mlとし、眼球内に32Gの細い注射針を使用して注入します。治療の間隔は選択的眼動脈注入については3-4週間に1回行い、Tクールとして3回行い治療効果を見て、必要なら2ないし3クール行います。硝子体注入は場合により毎週1回で連続3回行います。
3)脈絡膜悪性黒色腫の治療法について
対象は腫瘍の最大の厚みが5mm以下の場合です。メルハラン5mgを選択的眼動脈注入後、直ちに半導体レーザーを腫瘍の部分と周辺に照射して熱凝固を十分に行います。効果を3週後に眼底検査で確認し、不十分なら最初の治療から1ヵ月後に前回と同様に行います。3回の治療で1クールとして経過観察し、効果が不十分なら硝子体手術で腫瘍を除去します。
4)眼部悪性リンパ腫の治療法について
メルハラン5mgを選択的眼動脈注入し、その反応により腫瘍の縮小が十分でない場合は1ヵ月後に同様の治療を3回まで行います。それでも腫瘍の縮小が十分でない場合は本治療を中止します。
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研究の責任者・組織:
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研究責任者は帝京大学病院眼科主任教授である溝田 淳です。 症例の選択と経過観察は修練医の金子明博(元国立がんセンター中央病院眼科医長)が行い、選択的眼動脈注入は本治療法の開発者である修練医毛利誠(元東海大学病院放射線科講師)が行います。この2名は本治療法を国立がんセンター中央病院で開発した時からのチームで、本治療法は1989年に世界に先駆けて成功しました。
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研究の場所と期間:
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帝京大学病院の手術室で選択的眼動脈注入等の全ての手術的処置は行なわれます。
期間は取り合へず、平成23年3月31日までです。
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資料と個人情報の扱い:
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参加者の診療情報は病院の管理する病歴に保存されておりますので、研究者の不注意で個人情報が漏洩する可能性はありません。本研究に関する診療結果を分析する必要がありますが、その際は匿名化して集計しますので、個人情報が漏洩する可能性はありません。
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研究結果の扱い:
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研究結果は学会で報告し、学界誌で原著として発表します。その際個人情報の公表は必要ないため、個人情報が漏洩する可能性はありません。
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研究資金源:
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帝京大学病院眼科学講座の研究費と厚生労働省のがん研究助成金で研究は行われます。
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研究参加者の負担や支払いの有無:
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選択的眼動脈注入や硝子体注入に使用するメルハラン注射液(アルケラン注射液®)とカテーテルは研究費で購入し、研究参加者の負担はありません。但しその他のすべての費用(入院費、全身麻酔の費用等)はご負担いただきます。
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研究参加者個人が被る可能性のある利益または不利益・有害事象とその対応(補償についても):
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研究参加者が受ける可能性のある利益としては、従来の治療法と比較して、大きな後遺症に悩まされることなく、眼部の機能や形態を温存出来る事です。不利益の可能性としては、選択的眼動脈注入法を施行する際に、薬剤が過剰に反応して視機能の低下や失明する可能性があることです。 カテーテル操作の際、血管の痙攣や内皮の障害により血管が閉塞する可能性などありますが、これまで20年間に小児に1,490回以上施行して、1%以下の発生率です。
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研究への自由意思参加、同意取消しの自由:
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研究への参加あるいは不参加はご本人や保護者の方の自由で、強制されるものではありません。参加しない場合は従来の方法で治療致します。参加された方でも、途中で中止を希望される場合は、特に不利益を被ることなく、中止して従来の一般的な治療法を行います。
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研究の中止の条件:
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生命や視機能に重大な障害が発生した場合は、その原因が明らかにされるまで、研究は中止します。
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質問への対応の仕方・連絡先:
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ご質問があれば,出来る限り速やかに回答致します。 連絡先として、金子明博の携帯電話、メールアドレスをお知らせ致します。 帝京大学病院眼科当直にも連絡できるように連絡先電話番号をお知らせします。
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代諾者の場合、研究参加を強く要請する理由:
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研究参加者ご本人が本治療法を十分に理解できないが、施行する必要があると思われる場合は、代諾者に研究参加の必要性と危険性につき特に詳細にわたり説明致します。
16歳以上の未成年者を対象とする場合は、未成年者と保護者の両者に説明し同意をいただきます。